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福島地方裁判所会津若松支部 昭和36年(ワ)86号 判決

原告 福島県信用保証協会

被告 大竹雄助 外一名

主文

被告らは原告に対し別紙目録記載の建物につき福島地方法務局若松支局昭和三十六年三月二十八日受付第二四九八号を以つてなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同じ判決を求め、その請求の原因として、

「一、別紙目録記載の建物は、被告大竹の所有であるが、福島地方法務局若松支局昭和三十四年四月一日受付第二六三九号を以つて、同年一月二十日の売買予約を原因として被告有限会社大丸印刷所のために所有権移転の仮登記がなされた。

二、原告は被告大竹に対して有する債権に基づき別紙目録記載の建物につき強制競売の申立をなし、当庁において昭和三十六年三月二日強制競売開始決定がなされ、同庁の嘱託により福島地方法務局若松支局同年同月三日受付第一六四四号を以つて右強制競売申立の登記がなされた。

三、ところが被告らの申請により同支局同年三月二十八日受付第二四九八号を以つて、昭和三十四年九月一日の売買を原因とする前記仮登記に基づく、所有権移転の本登記がなされるにいたつた。

四、しかしながら、不動産登記法第百五条第一項第百四十六条第一項によれば、被告らは右本登記の申請をする場合には、その申請書に、登記上利害の関係を有する第三者である原告の承諾書又はこれに対抗することを得べき裁判の謄本を添附することを要するにもかゝわらず、これを添附しないで申請し、前記支局の当該登記官吏もまた右申請を受理すべきでないのに過つてこれを受理して登記をなすにいたつたものである。従つて右登記は不動産登記法の規定に違反してなされたものであつて無効の登記である。

よつて原告は被告らに対し右登記の抹消を求めるため、本訴に及んだ。」と述べた。

被告ら訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

「原告の請求原因事実は認める。原告は本件登記の違法無効をいうが右違法の原因は、福島地方法務局若松支局において、受理すべからざるものを過誤により受理したことにあるのであるから、原告としては当該登記官吏ないしは右支局に対し、登記事務処理上の違法を追求すべきものであつて、該登記抹消の義務がない被告らに対する本訴請求は失当である。」と述べた。

理由

原告の請求原因事実は当事者間に争がない。

よつて原告の請求の当否について判断する。

不動産登記法第百五条第一項第百四十六条第一項によれば、所有権に関する仮登記をなした後、これに基づく本登記の申請をする場合において、登記上利害の関係を有する第三者があるときは、申請書にその承諾書又はこれに対抗することを得べき裁判の謄本を添付することを要することと定められている。然らば右承諾書又は裁判の謄本を添附しない申請書が登記官吏の過誤により受理されて登記がなされるにいたつた場合、右登記の効力はいかゞなものであろうか。申請書に承諾書等を添附することは申請手続上の方式の問題であるけれども、承諾書等の添附がないということは、結局当該第三者の承諾のないことに帰し、しかも右承諾は登記の有効要件と解しなければならないから、該登記はその有効要件を欠く無効のものといわなければならない。

これを本件について見ると、被告らが本件の所有権移転の本登記を申請するに当つては、これに先だつて強制競売申立の登記を取得し、登記上利害の関係を有する第三者に該当する原告の承諾書等を添附することを必要とするにもかゝわらず、これを添附せずに申請書を提出し当該登記官吏は過誤によりこれを受理して登記をなしたものであるから、右登記は原告の承諾という有効要件を欠くものであつて無効といわねばならない。

被告らは、このような登記事務処理上の違法は、当該登記官吏ないしは登記所に対して追求すべきものであつて、被告らに対する登記抹消の請求は失当であると主張するけれども、登記の無効は、何時でも、何人に対しても主張し得るものであるから、被告らの右主張は理由がない。

よつて原告が被告らに対し、本件登記の抹消登記手続を求める請求は正当であるから認容すべきものとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上守次)

目録

会津若松市諏訪四ッ谷字諏訪四ッ谷二十七番の八地上

家屋番号第二十九番の二

一、木造木羽葺二階建工場一棟

建坪六坪外二階坪六坪

一、木造木羽葺平家建浴室一棟

建坪二坪

同所同番の十地上

家屋番号第二十九番の三

一、木造亜鉛メッキ銅板葺平家建居宅一棟

建坪十六坪五合

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